2008/01/19

死病が着実に進行する苦しみを耐える=ハドリアヌス帝





「今朝わたしは侍医のヘルモゲネスのもとへ行った。彼はかなり長い間アジアへ旅して、このほどヴィラへもどったばかりなのだ。検査の前に食事をとってはならないので、朝早く会うように時間がきめてあった。わたしはマントと寛衣とを脱いで寝台に横たわった。(中略)医師の面前で皇帝たるは難い。人間としての資格を保つこともむずかしい。職業的な目はわたしのなかに、体液のかたまり、リンパ液と血液のあわれな混合物をしか見ていなかった。今朝、こんな考えが、はじめて心に浮かんだ − 肉体、この忠実な伴侶、わたしの魂よりもわたしのよく知っている、魂よりもたしかなこの友が、結局はその主をむさぼりつくす腹黒い怪物にすぎないのではないかと。だがもうよい・・・わたしは自分のからだを愛している。このからだはあらゆるやり方でわたしによく仕えてくれたのだ。いまとなっては、世話のやける彼の面倒を見ないわけにはいかぬ。」
「[死病が着実に進行する苦しみを耐える]わたしの忍耐は実を結びつつある。前ほど苦しまなくなったし、人生はふたたびほとんど甘美なものになりつつある。もう医師たちとも喧嘩をしない。彼らの愚かな療法はわたしを殺してしまったのだが、しかし彼らの得手勝手な推測や偽善的な衒学趣味はわれわれの作り出したものである。もしわれわれがこんなにも苦しむことをおそれなかったら、彼らとてあれほど嘘をつくまい。」
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