2007/06/05

闇に駆ける猟銃




「闇に駆ける猟銃」は、あの津山三十人殺しを題材にしている。「八つ墓村」でも有名なあの事件が、清張の詳細なルポとして淡々と描かれる。彼はあったことのみを細かく積み上げて、事件を再構築していく。そしてそこに自身の犯罪心理における推理をおりまぜていく。これが、実際そうだったに違いないと思ってしまう巧みな推理で、清張の人間心理の洞察の深さに舌を巻いてしまう。「肉鍋を食う女」も、昭和二十二年に長野県で起こった事件を描いている。タイトルから察っせられると思うがこの事件は継娘を殺害し、その肉を山羊の肉といって三人のわが子らと食べてしまったという事件だ。人肉を食う話なら浦賀や佐藤などのメフィスト賞作家でもおなじみなのだが、ここで描かれるのは実際にあった事件である。背筋が寒くなるのは犯人の天野秋子が、継娘を殺害するときに「トラや、トラや」と継娘の名を呼ぶ場面である。娘は殺害されることも知らずに無邪気に近づいていく。この一瞬の狂気が恐ろしい。魔がさしたなんて生易しい言葉では表せない戦慄がある。これにくらべて「二人の真犯人」は少しインパクトに欠ける。
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