2007/08/19

男爵(バロン)エリーの訃報が届いた。90歳、アルプス山麓の狩猟用ロッジで心臓発作に見舞われたという。姓はフランス語でド・ロチルド、英語でロスチャイルド。言わずと知れたユダヤ系財閥の一員、フランスで栄えた分家の4代目である。




男爵(バロン)エリーの訃報が届いた。90歳、アルプス山麓の狩猟用ロッジで心臓発作に見舞われたという。姓はフランス語でド・ロチルド、英語でロスチャイルド。言わずと知れたユダヤ系財閥の一員、フランスで栄えた分家の4代目である。家業を継いで金融家(フィナンシェール)となったが、その情熱は大戦で荒廃したワイナリー「シャトー・ラフィット」の再興に注がれた。


彼がガス室に送られず、生き延びたのは、ナチスに莫大な身代金を払ったからと言われる。ウィトゲンシュタイン家もそうだが、命乞いに資産を差し出して助かったユダヤ人もいたのだ。そんな歴史を聞かされて、エルサレムでは男爵に声をかけそびれた。実はこの席にもう一人のロスチャイルドがいた。ロードの称号を持つ英国分家の嫡男ジェイコブである。「英仏の当主が一緒なんて、戦後初めてじゃないか」と先の知人が言う。
▼2人を観察してみた。会話はおろか、目で挨拶すらしない。といって、避けるでもない微妙な距離。ワインのライバルだからか。英国分家は19世紀に「シャトー・ムートン」を買っている。公式格付けでは2級だったが、エリーの父の肩入れで改良を重ね、73年に奇跡的な1級昇格を果たす。ラフィット対ムートンの見えざる火花、そこにユダヤ人の屈折が透けて見えた。
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