2008/03/01
「裏返しのモダニズム」=アルカイダ=日蓮宗=北一輝=ロシア革命=千年王国
テロと救済の原理主義
2008-02-28 / Books
アルカイダやイスラム原理主義について書かれた本は山ほどあるが、それを思想としてまともに理解した本はほとんどない。テロリストの思想を「理解」するなんて、とんでもないことと思われているのだろう。一昨年のピュリッツァー賞を受賞したThe Looming Towerはその稀有な例外だが、これは邦訳されていないので、本書はアルカイダの思想を系統的に紹介した唯一の日本語の本だ。彼らの教祖とされるエジプト人、サイイド・クトゥブは、若いころから秀才として知られ、ナセル政権に重用されたが、その腐敗に絶望して辞職し、1948年アメリカに渡る。そこで彼は祖国とは比較にならない繁栄を見たのだが、多くの留学生と違って彼は西洋文明に失望する。人々は物質的には豊かだが、キリスト教会はほとんど劇場となり、人々は信仰を口にするが、現世的な快楽に溺れている。それは彼らが神による支配というキリスト教の教えを忘れ、人による支配に堕落したからだ。帰国したクトゥブは、こうした信念のもとにナセルの社会主義政権に反対する党派を指導し、投獄される。彼を支持する多くの民衆がその解放を要求したため、内乱を恐れたナセルはクトゥブに閣僚ポストを提示したが、彼はそれを拒否し、処刑される。そしてクトゥブは殉教者として、イスラム原理主義にとってのイエス・キリストのような存在になったのだ。最近出たJohn GrayのBlack Massも、少し違う立場からクトゥブの思想を評価している。それは単なるテロリストの狂信的な教義ではなく、むしろノーマン・コーンが『千年王国の追求』で描いた、キリスト教からロシア革命まで共通にみられる千年王国主義とよばれるユートピア思想の典型である。そこでは堕落した現世の終末がやってきて神の国が始まり、選ばれた者だけが永遠に救われる。また本書も指摘するように、クトゥブの思想は、北一輝の―― 正確にいえば、彼の思想を信じて二・二六事件を起した皇道派青年将校の――超国家主義とよく似ている。そして北や石原莞爾が日蓮から影響を受けたことも偶然ではありえない。日蓮宗は、仏教の宗派の中でも「浄土教型」とよばれる千年王国主義の一種だからである。そして、こうした「プロテスタント型仏教」がスリランカの自爆テロをまねいていることも著者は指摘している。オウム真理教も、この類型だ。彼らが一致して糾弾するのが、伝統的コミュニティを破壊して人々を原子的個人に分解し、利己主義をあからさまに肯定する資本主義の非倫理性だ。かつて Grayの『ハイエクの自由論』を、生前のハイエクは「私の思想をもっとも的確に理解した本」と評したが、そのGrayもハイエクが資本主義の非倫理性のジレンマを解決できなかったと批判している。もちろん、その解決策がアルカイダにあるわけではないが、それが近代社会が始まって以来ずっと続いてきた反モダニズム運動の典型であり、小川氏のいうように「裏返しのモダニズム」であることを知っておくことは重要だ。彼もGrayも指摘するように、アメリカのキリスト教原理主義をイラクに輸出しようとしたネオコンとブッシュ政権の思想も、アルカイダとまったく同じ類型のユートピア主義だからである。
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